
「漢方×DX」をテーマに、漢方の未来と、その取り組みや展望を語っていただく連載の第2回目は、らいむらクリニック院長の來村昌紀先生にインタビュー。著書『がんばらない小さなクリニックの経営戦略』内でのお話も含め、大学病院の脳神経外科医から漢方専門医となり、クリニックの開業など、数々のチャレンジをエネルギッシュに挑む來村先生が考える「漢方×クリニック経営×DX」を語っていただきました。
——著書『がんばらない小さなクリニックの経営戦略』を読ませていただきました。そもそも「がんばらない」を考え始めた経緯を聞かせてください
來村先生:本の中でも書きましたが、発端は近隣のクリニックの閉院です。院長先生のブログにはコロナ禍での患者さんの減少が経営に打撃を与えたと書かれていました。地域でも評判のクリニックだったので、苦渋の決断だったと思います。経営問題も大きいとは思いますが、きっとスタッフの方々もかなり疲弊されていたのではないですかね。気 持ちがわかるだけに、かなり心に期するものがありました。
「このような理由で閉院するクリニックを出してはいけない!」と思いました。
スタッフが疲れてしまってはいい医療が提供できませんし、自分たちを犠牲にして成り立つ医療の在り方を変えて、80%の力で満足してもらうにはどうしたらいいか、ということを考えるようになったんです。
——「80%の力」というのは、かなりセンセーショナルな言葉ですよね
來村先生:何よりも継続して満足してもらうことが重要なんです。私も開業したてのころは、なんでも診てました。
今は、妻と二人でクリニックを運営していますが、昔はスタッフももっと多く、2診制も取っていたんです。そんなとき「今月は売上が過去最高!」と喜んで、振り返ったらスタッフは誰も喜んでいない。そのうち、ひとり一人とスタッフが辞めて、2診制も対応できない状態になってしまいました。
そこからです、私がクリニックの経営や、スタッフのマネジメントについて考えるようになったのは。
——そんなショックなできごとからのポジティブな切り替えに驚きました
來村先生:そんな思いを抱いているときに出会ったのが、佰食屋という飲食店の中村社長の『売上を、減らそう。』という本でした。
そこには、
「まずはスタッフを大事にする」
「もっと売れたら儲かるのに、とにかく100食以上いいじゃないのと言われるけど、そうはしない」
と書かれていました。
この考え方はありかもと思い、まず2診制をやめることにしたんです。
その時期にやっていたほかのこともやめて、なるべく仕事のストレスを減らすことから試しました。
売上は一時期、月で50万円くらい減りましたが、外出のために断っていた患者さんを診れるようになり、売上も回復していき ましたね。何よりもストレスが少なくなって、診療に集中できるようになりました。自分たちの専門、やれることに特化することが大事です。
——本の中では、売上のことなども赤裸々に書かれていますよね
來村:継続して安定した医療を提供することは大切なことですから、ぜひ参考にしてほしいと思い、細かく書きました。人件費や営業利益なども書きましたが、その健全経営の下支えをしてくれているのは“漢方”です。

——健全経営の下支えが“漢方”という言葉に驚く方も多いと思うのですが
來村:当院は頭痛治療と漢方に特徴のあるクリニックです。
漢方薬を出すことで、診療単価が上がるわけでもないので、それだけでは儲かる診療ではありません。しかし漢方薬はいろいろな症状に対処できるのが利点です。
頭痛が初診で来られる患者さんが多いですが、治療が済んでもかなりの方が便秘や更年期など、継続的に漢方薬での対処を希望されます。こういった症状は、季節に左右されずコンスタントに来院されるので、経営を安定させることができます。
例えば、耳鼻科などは花粉症の季節にはたくさんのスタッフが必要になりますが、それ以外の時期は必要ないです。しかしMAXにあわせていると固定費だけが出ていく状態が続きます。漢方には繁忙期と閑散期がほとんどなく 、年間通して定期的に患者さんが来院されるので、支出もある程度固定できるというわけです。
もうひとつ考えないといけないのが、患者さんのリピートに関してです。新規の患者さんが2回目の診療に来なくても、ある程度は仕方がないという考え方が、割と一般的ですが、実はほかの業態だと、ポイント付与したり、クーポンを渡したりいろいろしますよね。同じように次回来院してもらうことは本当に大切なんです。その観点を考えると“患者満足度”を上げることが重要で、そこに漢方は有効です。漢方の問診はコミュニケーションでもあり、長いお付き合いをすることを最初に伝えられるので、リピート率は必然と高くなります。漢方という武器で診療の考え方をDXして、健全経営をしているといってもいいですね。
——クリニックの経営面について、いくつも工夫されていると思うのですが、特徴的なことを挙げていただけますか?
來村:いろいろとありますが、やはり妻の存在が大きいです。クリニックといえども選ばれる存在ではなくてはいけないと思います。「選ばれるクリニックづくり」のプロデューサーは妻ですね。
待合室での患者さんの状態などを診察室に入る前に適宜共有してくれたり、院内の雰囲気作りやスムーズな診療運営にとても配慮してもらっています。
待合室の雑誌のセレクトなどは、私が選んだものより、妻が選んだものの方が圧倒的に人気なんです。
医者は診断して薬を出して、病気を治す職人的なことには長けていますが、患者さんとコミュニケーションを取って、相手に寄り添うことが苦手な先生も少なくないですよね。
病気になったとき、あのクリニックだったら少しは楽しみがあるとか、雰囲気がよかったとか思ってもらえるよう、いろいろ気にかけてくれています。
——「選ばれるクリニックづくり」という面では、SNSやYoutubeも積極的に取り入れていますよね
來村:コロナ禍で、一刻も早くクリニックから出たいという患者さんが増えました。症状や薬のことなど、詳しく説明したいのですが、早く帰りたいモードの患者を引きとめるわけにもいかず、妻の薦めでYoutubeを始めてみたんです。
患者さんの心配事や聞きたいことは似通っているので、それを動画にして、後から見てもらえば、私も同じ説明を何度もせずに済むというメリットがありました。
これによって待ち時間も診療時間も短くなりましたし、患者さんの満足度も下げることなく、対応できています。
「Youtubeでよくわかりました」と患者さんからも好評なんですよ。
——本当にいろいろチャレンジされていますね
來村:一人でできることには限りがあるので、今はたくさんの方々とジョイントして、活動もしています。
「漢方が頭痛に効果的であることを広めたい」という思いから、講演会を全国でセッティングしてもらったり、漢方の普及のための活動も進行中です。またサプリメントメーカーさんと組んで「頭痛サプリ」も開発しまし た。なんと楽天市場の頭痛サプリメント分野で売上ナンバーワンなんですよ。
このような志が一緒のメンバーとジョイントベンチャーを組んで、これからもいろいろ活動をしていきたいと思っています。
——「80%の力」だからこそ、残りの20%でいろいろチャレンジができているんですね。最後に今後の目標なども聞かせてください
來村:開業したときに、本当にたくさんの方とのご縁で助けてもらい、さらに同じ思いの仲間に出会えたことに、感謝しています。
この経験を広く役立てたいと思い、現在は漢方の知識だけにとどまらず、医療の経営を学ぶ コミュニティ「春桜会竹林庵」を運営しています。東洋医学と西洋医学の統合医療を広め、世界を変えたい!をミッションにしたメンバーの集まりです。
また最近、このインタビューでも最初に話しましたが、継承できずに閉院するクリニックも少なくありません。同じ医師だからこそ、気づけることや、見えるものもあると思うので、後継者を考えないといけない医師と開業したい先生をマッチングして、クリニック経営を引き継ぐお手伝いをしてみたいと思っています。
運営するコミュニティを通じて、未来を望む先生方のミッションと、世界を漢方で変えたい私のミッションの実現を目指していきたいです。
來村昌紀先生
日本脳神経外科学会 脳神経外科専門医、日本頭痛学会 認定頭痛専門医・指導医、国際頭痛学会 Headache Master、日本東洋医学会 漢方専門医・指導医
Youtubeでの発信を始め、ジョイントベンチャーの活動など、積極的に活動。
著書『頭痛専門医・漢方専門医が書いた頭痛の本』『漢方専門医の脳外科医が書いた漢方の本・入門編』『5人の名医が脳神経を徹底的に研究してわかった究極の疲れない脳』『がんばらない小さなクリニックの経営戦略』
春桜会竹林庵
らいむらクリニック チャンネル
https://www.youtube.com/channel/UC1bX4jLzhupUHwRS0EFRCwQ