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まず入って驚いたのはアートのような空間。椅子、机、導線など至るところまでこだわりを感じる点。まるで高級旅館にいるかのようなデザイン性にただ「すごいですね」という言葉を並べることしかできず、インタビューはスタートしました。 

 

――クリニックツアーをしていただきましたが、細部へのこだわりのすごさに圧倒されました。 

 

勝野先生:オープンして1年半以上経つんですが、今でも院内の見学に来てくださる先生がいるのはとてもうれしいです。 

ここは、千葉大学の工学部の先生方と学生たちがいろいろと試行錯誤しながら、新しいコンセプトの診療施設として作ってくれました。 

ブランドコンセプトは「五感をシミュレーションする漢方研究所」です。「東洋医学診療所×環境デザインの研究」を行うことをテーマに設立されたものになります。 

診療を受けながら、五感のうちの視覚・聴覚・触覚・嗅覚を存分に感じてほしいと思っているんです。 




 

――エントランスから解放感があって吸い込まれるように入ってきました。 

 

勝野先生:生薬など学べる展示を置いていたり、千葉大学の植物工場研究の技術を生かした水耕ハーブの栽培もしています。これは学生たちの協力で育てているものなんです。 


 

――そのほかにも学生たちが参加している取り組みがいくつもあると伺いました。 

 

勝野先生:診療施設全体に統一で使われているカラーリングは、紅鳶(べにとび)・松海(みる)・青朽葉(あおくちば)など、日本の伝統色にインスピレーションを受けて設定されたものです。それも学生たちが関わって選んでくれたもので、そのほか廊下の展示物なども季節によって、いろいろ提案してくれています。 

五感のうちの味覚に関しては、学生たちが「漢方カフェ」を開いてくれています。 

 

 

漢方のための診察家具開発

 

――学生たちの参加意欲にも驚きますが、そのほか研究としての取り組みも聞かせてください。 

 

勝野先生:まず薬剤師が服薬指導をするスペースは新しい試みだと思います。当初は部屋として作るという考えのもとスタートしましたが、閉鎖的だとのことでボツとなりました。最終的には、明るく入りやすく開かれているけれど、でも会話内容が漏れないことを考慮し、YAMAHAのサウンドマスキングシステムと遮音カーテンを導入し、地元である墨田区の日本音響エンジニアリングの調音家具により、会話を聞きやすくしながらもデザイン性にすぐれたインテリアを採用しています。 

 


――カーテンを開けるとデザインインテリアが素敵なオープンスペースのように見えますが、実はかなり考えられた設計なんですね。 

 

勝野先生:設計で言いますと、診察室や予診室も今までにはない効率も考えた設計と試みがあります。 

1つは予診室が2つの診察室の真ん中にあることです。予診室の看護師がいつでも両方に効率よくスピーディに対応できること。これは患者さんにとって大きなメリットですね。 

また診察家具についてはすべてオリジナルで作っていますが、中でも2つの診察室の診察家具はそれぞれコンセプトを持っています。1つは丸。1つは四角となっているんです。どちらもパソコンに向かっている医師と目が合うように設計されていて、患者さんが腹診の際もベッドを移動せずに受診できるよう考えました。 

四角の診察は私のこだわりで、座面が通常より低いんです。 

女性やお年寄りの方の負担を少しでも減らしたいと思っています。 

これもまた研究のひとつですね。 

 




 

患者がまた来たい・通うための工夫を「見せる」「作る」カタチで提供

 

――調剤室もかなりオープンですね。 

 

勝野先生:漢方薬の形態には「煎じ薬」と「エキス剤」とがありますが、この診療施設は自由診療のためか、7~8割くらいの患者さんは煎じ薬を選ばれます。 

自分で煎じるのが大変という患者さんに対しては、この調剤室の窯で薬剤師が煎じの代行を請け負っています。 

これを求めて来られる患者さんがとても多いですね。 

漢方薬は内服していただかないと意味がありませんから、このような工夫とオープンなイメージでまた来てくれる患者さんを増やしていきたいですね。 



 

――薬学生の薬局実習も受け入れていると伺いましたが。 

 

勝野先生:うちの薬剤師は通常の業務のほかに、煎じ薬の代行をしたり予製を作ったりと、とても大忙しなんですが、薬学生の薬局実習も受け入れています。 

医師も含めたスタッフがみな、墨田区の方にもっとこの場所を知ってもらいたかったり、漢方を身近に感じてほしく、イベントに参加したり、クリニック主催でセミナーを開いたりしています。 

 

――住民の方への取り組みも大切なんですね。 

 

勝野先生:前に診療所のあった千葉県柏市では、いくつか漢方に携わる病院があったためか、漢方を身近に感じてくれていた住民の方が多かったのですが、こちらはこれからという感触ですね。 

 

とはいえ墨田区は歴史的には漢方にゆかりのある場所なんですよ。 

墨田区向島にある常泉寺の境内にある石碑は、漢方医学のバイブルと呼ばれる「傷寒論」などをまとめた張仲景の功績をたたえたもので、江戸時代に建立されました。 

こちらの石碑には戦前に漢方復興に尽力された先生方も多くお参りに来られたと聞いています。 

そのほかにも両国駅近くの千歳にある江島杉山神社には、日本の鍼灸の父と呼ばれる杉山和一先生が祀られていたりとかなり縁があるんです。 

 

そのようなことも含め、ぜひこの墨田漢方研究所から漢方を発信し、広めていきたいと思っています。 

ここの場所は、オープンで、若い方にも長く地元に住んでいる方にも入りやすい空間を考えて作った場所です。 

その研究施設でもあるので、そのコンセプトを生かした地元の方との交流と漢方を根付かせるための活動をしていきたいと思っています。 



 

――最後に漢方に携わる方へメッセージをお願いします。 

 

勝野先生:今回、大学が後押ししてくれたことにより、かなり先進的な漢方診療施設を作ることができましたが、同じような取り組みをしている方や、取り組みをしたい方とぜひ交流を持ちたいと思っています。 

私たちは「東洋医学診療所×環境デザインの研究」というテーマですが、一歩先の漢方を考えている方とコミュニケーションをとりたいので、ご興味があったらぜひ墨田漢方研究所に見学だけでも来ていただけると嬉しいです。 

そんな和を大切にしつつ、少しずつ広がる漢方の未来に、墨田漢方研究所としても関わっていきたいです。 




勝野達郎先生

医師、医学博士、日本消化器病学会専門医、日本消化器内視鏡学会専門医。

千葉大学環境健康フィールド科学センター 准教授、千葉大学柏の葉診療所所長を経て、現職。

地域に根差した漢方診療も目指し、地域活動にも積極的に参加している。




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