漢方の現在地と未来について、第一線で活躍する先生にインタビューする連載「KAMPO message」の第4回目は、福井県済生会病院 内科部長・集学的がん診療センター顧問の元雄良治先生にお話を伺いしました。がん治療のエキスパートでありながら、週3回の漢方外来を続ける先生からみた今後の漢方の世界とは。
——週3回の漢方外来に来院される患者さんはどんな方が多いですか?
元雄先生:金沢市のクリニックでは近隣に漢方クリニックがないので、初診の方はみなさんネットなどで探して来院されます。更年期や、不定愁訴で悩まれている女性が多いですね。なお、福井県済生会病院の漢方外来は、「がん治療サポート外来」なので、基本的にがん患者さんです。
——毎回、かなりお忙しいのではないですか?
元雄先生:リピーターの方もかなりいますので、けっこう忙しくしています。再来の方は大体月1回程度で診ています。初診だと「証」が決まるまでは2週間間隔で来院してもらうのが一般的です。証の確定までは、患者さんとコミュニケーションを取りながら、結構いろいろと処方を変えたりしていますね。
——もともとがん研究が専門の中、週3回の臨床が研究に影響することはありますか?
元雄先生:大学でも看護師さんや薬剤師さんと一緒に、多職種チームで臨床研究していたので、外来診療はとても役立っています。
患者さんの本音を引き出すことは本当に難しいです。そういうコミュニケーションの部分は大学の研究では、なかなか学ぶことができないので、クリニックでの診療はとても役に立っています。
常に患者さんとの対話ですから、クリニックの診療はその延長線上にあると思っています。長い患者さんは30年くらい診ているんですよ。母娘で来てくれている方もいますし、親子孫の3代なんていう方もいます。
——ご専門のがんの患者さんが頼ってこられることもあるんですか?
元雄先生:そうですね。大きながん拠点病院に通院していて、さまざまな症状が出た時に、不安で来られる方もいます。そういう方には、「漢方でがんを治すのではなく、ちゃんと大学とか県立病院で治療が続けられるようにサポートします」と言っています。
福井県済生会病院では、「がん治療サポート外来」をやっていることが新聞やニュースなどで取り上げられたので、それを見て遠方から来られる方もいます。院内の他の診療科からの紹介が多いです。
——日々更年期障害や不定愁訴、さらにはがん患者さんまで漢方でサポートしていると思いますが、先生からみた漢方の置かれている環境についてお伺いしてもいいですか?
元雄先生:まだまだ医療関係者も一般の患者さんも漢方の良さを知らないですよね。他の先生方によく「漢方薬の処方をどうしていますか?」とインタビューするようにしています。そうすると、「患者さんのリクエストで典型的な処方をして、効かなかったらそこで漢方治療は終わりかな」と言われることが多くて。患者さんからは、「漢方薬は保険がきかないんですよね?」と質問されたり。
漢方の国際化(グローバル化)などの話もありますが、日本国内での認識がまだまだ浅いことを目の当たりにしています。
そんな中ですが、2024年から耳鼻咽喉科医と循環器内科医が、週1回私の福井県済生会病院の漢方外来(がん治療サポート外来)で、漢方専門医をめざして研修を始めました。
——先生にとっては嬉しいことですね。何が要因ですか?
元雄先生:ここ10年なかったことですよ。私もびっくりしています。
ふたりとも漢方の勉強がしたかったけれど、どこで研修したらいいかわからなかった中で、たまたま目にした記事で、自分の病院に専門医・指導医がいることを知って、門をたたいてくれました。メディアでの情報発信は、内外ともに大切だと感じています。
——やはり今後の取り組みは、後進の育成ですか?
元雄先生:そうですね。今、研修に来てくれている先生方は 30代の医師ですが、このような若い先生がさらに漢方に興味を持って、より深く学び、患者さんに漢方を正しく使ってもらいたいです。ひとりでも多く、自分の専門を持っている医師が、漢方を自分の領域で使ってもらえるようになるのが理想です。その手伝いをしたいなと思っています。それぞれの医師の専門で、西洋薬と漢方薬をうまく使い分けたり、併用したりすること。やはり適応と限界をちゃんと知って、こういう時は漢方適応だし、こういう時は漢方の限界というのをはっきり区別できるというのも、自分の専門領域の診療の幅を広げることになりますね。 目の前の患者さんをなんとか自分の力で少しでも楽にしてあげたいっていうのは、 臨床医の根源ですから。そのためには新しいものや良いと思うものは、どんどん取り入れたいと思っています。
新しいものを追求して、現状を知りながらもっと前へという考え方が好きですね。
——先生から見た漢方のこの先は、どうなっていてほしいですか?
元雄先生:考え方もそうですが、技術の進化も含めて、“漢方用語が皆さんの共通言語になる”ですかね。さきほども話しました漢方の「適応と限界」をちゃんとわかる医師が増え、患者さんもある程度情報を知っている、診療のコミュニケーションの中に漢方が存在する位置づけになってほしいです。さらに薬剤師や看護師なども含めた医療チームにも漢方が共通言語になってほしいです。そのためにもまだまだやらないといけないことは多いですね。
元雄良治先生
社会福祉法人恩賜財団 福井県済生会病院 内科部長・集学的がん診療センター顧問、金沢医科大学名誉教授。福井県済生会病院で週2回、医療法人社団 愛康会 ソフィア内科クリニック(金沢市)で週1回、漢方外来を担当。「患者さんが自分らしく生活できることをサポートしていく」ことをモットーに臨床・研究に当たっている。