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漢方の現在地と未来について、第一線で活躍する先生にインタビューする連載「KAMPO message」の第5回は、三谷ファミリークリニック院長・日本東洋医学会 前会長の三谷和男先生にお話を伺いました。西洋医学と東洋医学双方の強みを見据えながら、地域に根ざした診療を続ける先生が語る、これからの漢方のあり方とは。



——漢方が保険適用になったのは昭和51年からですが、それ以降、どのような変化を感じていらっしゃいますか?

三谷先生:まずエビデンスの蓄積がしっかり積み重ねられてきていると感じます。漢方薬が健康保険適用になった当時、多くの反対意見がありましたが、現在ではそうした立場からの様々な指摘に答えられるようになっています。漢方が本当に人の役に立つ医療であり、その核をなす薬であるという確信を、私たち漢方に携わる人間が自信を持って伝えられるようになったことが大きいですね。



——先生ご自身の漢方との出会いはどのようなものだったのですか?

三谷先生:私は漢方を手掛けていた父(三谷和合先生)のもとで育ちましたので、体調を崩した際の治療はすべて漢方でした。まさに漢方と共に育ったわけです。



——幼い頃から漢方が身近だった先生にとって、大学に入学して西洋医学が中心だと知った時はカルチャーショックだったのではないですか?

三谷先生:大そうですね。大学に入ると、漢方が全く登場しないんです。“自分の治療の中心だった漢方”が世の中では主流ではないと知ったこと、これは一番ショックでしたね。臨床講義を聞きながら「いつ漢方の話が出てくるんだろう」と思っていました。



——それでも漢方への思いは揺るがなかったのですね。

三谷先生:はい、揺るぎませんでした。西洋薬が「(誰でも)黙って座ればピタリと当たる」的な効果を目指すのに対し、漢方は患者さんと対話しながら治療を組み立てていくものです。患者さん・病人さんの考えを理解し、その方の望む、あるいは可能な治療の方向性に合わせて薬を選ぶ。これは漢方独自の魅力だと感じました。



——西洋医学と漢方、それぞれについてのお考えを聞かせてください。

三谷先生:若い頃は「西洋医学、何するものぞ」という気概でやっていました(笑)。

しかし2003年、京都府立医科大学で漢方診療を担当させていただいたことがきっかけで「西洋医学VS漢方」の図式ではなく、絶えず進化する西洋医学を前提に漢方をどう活かすかを考えるようになりました。

西洋医学は「診断」に基づいて治療方針が決まっていきますので、その後その方針は大きくは変わりません。一方で漢方の「証」は変化しますので柔軟に対応する、そこが大きな違いです。


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——効果判定について先生がよく受ける質問があるとか。

三谷先生:漢方の勉強会では「そのお薬を出せば、どれくらいの期間で効果があらわれてきますか?」と聞かれることが多いです。私は「次に来ていただく日が、そのまま先生の考えられる効果判定の時期です」と答えています。大学病院ではどうしても1週間後が最短ですが、開業医だと「明日来て」「明後日来て」と伝えられる。それが処方した薬の効果を判定する日時だと考えています。

「今日の証」と「明日の証」は違うという確信を持てるようになってからは、西洋医学の土台の上で漢方を活かすことが本当に大切だなと思うようになりました。



——代診をお願いする際、西洋薬はそのままで、漢方薬は変えてほしいとおっしゃる理由は?

三谷先生:代診をお願いする先生は、私とは違う視点で患者さん・病人さんを診ている可能性があります。つまり「証」が異なる可能性があるわけです。せっかく張りきって代診していただくなら、漢方はその先生の目線で処方を変えるべきだと考えています。



——以前は違うお考えだったそうですね。

三谷先生:最初の20年間はそうでしたね。私が処方した漢方薬を勝手に変えられたら困る、と思っていました。しかし、西洋医学を土台として「証」を考えるという視点をもつと、人によって、同じ患者さんでもA先生が診る「病人さん」とB先生が診る「病人さん」は、「診断」は同じでも「証」は違う、という考えに至りました。

それが「今日の証」と「明日の証」、そして「見る方向によって違う証」なんだと思います。これが漢方の醍醐味かもしれないです。



——最後に、漢方の未来についてのお考えをお聞かせください。

三谷先生:漢方診療は西洋医学を土台とする保険診療の中で人々の役立つという考えを私は持っています。保険診療の中でこそエビデンスが構築されていくのです。

現在、漢方を健康保険適用から外しても良いという意見(表向きはOTC類似薬と言われてますが・・・)があるのも事実です。しかし、私たちは今後DXなどを活用してデータを効率的に取得・検証し、有効性の再現性を確保していく必要があります。DXにより、「漢方についてここまでは普通に理解されているんだよ」がわかり、今後の漢方診療の可能性と人間の歴史と共にあり続けてきた実績について、多くの方々に納得してもらうことが大切だと思っています。

漢方を志す若い世代の先生方が、私たちの世代が経験した不必要な苦労をせずに漢方に打ち込める世界を作りたいです。患者さんそして病人さんとしっかり向き合う漢方診療では、なによりも大らかなこころと笑顔が大切ですから、診察室は笑顔が絶えない、そういった診療ができるよう、これからも頑張っていきたいです。


三谷和男先生 

三谷ファミリークリニック 院長。鳥取大学医学部卒業後、大阪大学大学院医学研究科博士課程を修了。和歌山県立医科大学神経病研究部に所属し、博士研究員を経て木津川厚生会加賀屋病院に勤務(のちに院長・理事長)。

その後、京都府立医科大学東洋医学講座で助教授・准教授を務め、2007年に三谷ファミリークリニックを開設。

2014年から奈良県立医科大学大和漢方医学薬学センター特任教授を歴任。前日本東洋医学会会長



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