――最近、患者様を診ていて感じられる変化はありますか?
今津先生:コロナの前後で、誰しも生活スタイルが随分変わりましたよね。人と会わなくなる、無駄な会議に出なくなる、それによって自分の時間が増えた。これらはいい面ですね。
でも逆に、運動しなくなった、歩くことさえリモートの日などは少ないという人もいますね。また人と話さなくなって発散しなくなった。女性はお茶会が、男性は夜の飲み会が減ったという話をよく聞きます。
フィジカルな面もメンタルな面も変化しているのですが、このことによる身体の変化を自覚している人は、多くはありません。
テレビのニュースでも、コロナの影響によるコミュニケーション不足などが取り上げられたりしますが、それを自分事だと観ている人は少ないですよね。
多かれ少なかれ、何かしら身体に影響しているというポイントを押さえて治療しないとうまくいかないのが、現在の治療方針になっています。
――漢方的見地からの取り組みをぜひ聞かせてください。
今津先生:このような患者さんの状態に漢方医学を通すと見えてくるものがあるんですよ。
西洋医学的なデータでは浮かび上がってこないことを、漢方の診断では明らかにすることができる、ここが大切ですね。
――もともと外科医だった今津先生ならではの考え方ですね。
今津先生:細分化されていく西洋医学の診断に、漢方のフィルターをかけるというアプローチですね。
オーバーラップする部分もあれば、しないときもあるんですが、これがいいところです。
「皮膚のできもの」の例ですが、皮膚科に行けばがんの有無や、感染症などの診断で外用薬が出たりします。データとしては正解なので、診断率はあがります。
でも糖尿病がベースで免疫力が低下していて、できたという例もあるんです。
実はこういった事例の蓄積は医学書に載っているんですけど、卒業してしまうと読まないですし、目の前の治療に専念しますよね。
各分野の専門になってしまうと、なかなか全体を把握しようと思わないんですけど、漢方をやっていると毎日の臨床の繰り返しが、医学書を実践しているようなものです。
身体すべてを診て診療する漢方の強さですね。
――今度の漢方医療についての考え方を教えてください。
今津先生:患者さんも私たち医者も、やらなければいけないことがあると思います。
先ほども話した通り、コロナを経験したことで自分の時間を作ることができるようになりました。この機会を自分が年齢を重ねることによる、体の変化と向き合うチャンスだと思ってほしいです。
自分の未来を見つめるいい時間だと思うと前向きですよね。
同時に医療としても目の前の患者さんの「今」を治すだけではなく、将来にどんな病気になるのかなども想像しながら、対策とアドバイスをする医療が求められる時代になってきていると思います。
だからこそ、最先端医療を取り入れてもいいし、いろいろなアプローチを学ぶべきです。そのひとつの見解として、毎日の漢方診断を患者自らができるように、手助けすることが何よりも大事になってきます。セルフメディケーションの重要性です。そうすれば、患者さん自身が異常に早く気付くことができ、そこにスペシャリストの医師が関わることになれば、大きな病気にならずに済みますからね。
この流れがスムーズになる未来が来るよう、日々患者さんと向き合っています。
今津嘉宏先生
芝大門いまづクリニック院長/藤田医科大学医学部客員講師。
慶應義塾大学病院、南多摩病院、霞ヶ浦医療センター、恩賜財団東京都済生会中央病院などで医療に従事。2011年の震災を機に、患者のそばにいられる町医者を目指し、芝大門いまづクリニックを開業。
慶應義塾大学病院では、外科医として主に消化器がんの患者の治療を行うも、実際の医療現場では「治せない患者」が多くいることを実感。外科学の治療で救い切れない患者を、漢方という全く別のアプローチで救うことができるといった論文に出会い衝撃を受け、慶應義塾大学の漢方医学センターで本格的に漢方医学を学び、その後、がん治療に漢方を取り入れるなど、西洋医学と漢方医学を区別することはせず、「頭のてっぺんから足の先まで」を合言葉に総合的な観点から診療にあたっている。