――先生が医師になられたころと、現在を比べて漢方医療の変化をどう感じられていますか?
伊藤先生:私が医師になったのは1981年、43年前です。そのときに比べると、医師の漢方に対する姿勢が随分変わったなと感じます。
今では9割の医師が漢方を処方するといわれているんですよ。
私が医師になったばかりのころには、考えられない話です。
学生時代、喘息を患っていて、自分の病気を治すために医学部を受験しました。学生時代に出会った漢方と先生たちの治療のおかげで、臨床に出れるくらいに体力もついたんです。
漢方への感謝と、恩返しで漢方と向き合ってきたんですが、気付けば40年以上。長い付き合いになっています。
――昔よりたくさんの医師が漢方を処方するようになっていることに対してはいかがですか?
伊藤先生:来院される患者さんで、すでにほかのクリニックで漢方診療を経験している方が最近は多くなりました。処方された漢方薬を聞くと「なかなかいい処方だなとか、勉強しているな」と感心することも増えてきました。
漢方を取り巻く医療のレベルが上がっていることを感じます。
――漢方を学ぶ環境についてはどうですか?
伊藤先生:私が医師になったころは、漢方を学ぶためにはまず、西洋医学の勉強を終わらせて、開業して、ひたすら漢方のみと向き合うことがセオリーとなっていました。
そんな時代を経て、今は総合診療科に入っていろいろな患者さんを診ながら、その中で漢方を学んでいくというケースが多いようです。これもとてもいいことだと思います。しかし40年医師を続けてきた経験から最近思うのは、西洋医学の専門領域の中で、漢方を取り入れていくという漢方薬とのかかわり方も良いように思えます。
西洋医学の専門領域の医師たちが最先端の治療とともに、漢方薬の新しい使い方を発見しているんです。
例えば、脳神経外科で慢性硬膜下血腫の患者さんに五苓散が用いられるようになりました。
私の立場では、そのような患者さんが来られたら、脳神経外科に治療を依頼しますので、漢方での治療という選択肢はないのです。最近は専門家のプロフェッショナルな管理下で新しい漢方薬の使い方がなされているんです。
臨床医として漢方に関わる道は大きく2つあります。
私と同じように総合診療的立場として、漢方医学を専門として扱う。
そしてもうひとつが、西洋医学で専門領域を極めながら漢方を取り入れていくやり方でしょう。
西洋医学とともに、漢方医学を学べる環境があるのは日本だけです。
ぜひ西洋医学、漢方医学を区別することなく、取り入れてほしいです。
西洋医学も漢方医学も日々成長しているので、だからこそ同時に学ぶことの重要性があります。
現在の卒後研修カリキュラムでステップを踏みながら進んでいくと、漢方の専門医になるころには40代、50代になってしまいます。
もっと若い立場の皆さんが漢方に携わってくれること、それが今の望みです。
そのためには変えなくてはいけないことが多々あるので、そのための活動もしていきたいです。
先ほども話しましたが、世界にも稀な西洋・漢方医学をともに学べる、日本のこのメリットを生かした研究成果を、世界に発信できる仕組みを整えていきたいと思っています。
伊藤隆先生
証クリニック総院長・医学博士。日本東洋医学サミット会議議長。千葉大学医学部卒業。
富山医科薬科大学和漢診療部助教授、東京女子医科大学東洋医学研究所教授ほかを経て現職。
前日本東洋医学会会長。著書に「呼吸器症状漢方治療マニュアル」(現代出版プランニング)など。